シドニー!

過不足なく日々の責務を果たしながら、中年の後半に入りつつある人を思わせるようなホテル

とくに立派なホテルでもない。どちらかといえば、過不足なく日々の責務を果たしながら、中年の後半に入りつつある人を思わせるようなホテル

湿った新聞紙みたいな顔つき

みんなぶすっとした、湿った新聞紙みたいな顔つき

成長しすぎた気のいいネズミみたい

子供のカンガルーはとても可愛い。みんな成長しすぎた気のいいネズミみたいに見える

喫茶店で原稿の打ち合わせをするときにフルーツパフェを注文する文芸誌の編集者みたい

見るからに頭が悪そうだ。喫茶店で原稿の打ち合わせをするときにフルーツパフェを注文する文芸誌の編集者みたいに見える

見慣れない客が入ってきたときに、カウンターの常連が送ってくるような視線

新宿ゴールデン街の文壇バーで、見慣れない客が入ってきたときに、カウンターの常連が送ってくるような視線

共和党を支持するラッパーを見るときのような目つき

共和党を支持するラッパーを見るときのような目つき

前に見たことのある大河映画をもう一度見せられているみたい

帰りのドライブは退屈だ。前に見たことのある大河映画をもう一度見せられているみたいだ。

トカゲを飲み込んでしまったみたいな情けない顔

まるでまちがえてトカゲを飲み込んでしまったみたいな情けない顔

尻尾を切られかけた動物みたい

はさみで尻尾を切られかけた動物みたいにわあわあと騒ぎまくって

がちがちの定期預金みたいな投手戦

がちがちの定期預金みたいな投手戦

まるでブラジルから十一年ぶりに帰ってきた困りもののおじさんの理不尽な頼みを、なぜか断り切れないみたいに

まるでブラジルから十一年ぶりに帰ってきた困りもののおじさんの理不尽な頼みを、なぜか断り切れないみたいに

なんにだって噛みついついてやろうという顔つき

売れない文芸評論家と同じで、機会があればなんにだって噛みついついてやろうという顔つき

熱を出して学校を休み、布団の中から天井を眺めているときの気持ち

子供のころ、熱を出して学校を休み、布団の中から天井を眺めているときの気持ち

双眼鏡を逆の方からのぞいたみたいに

双眼鏡を逆の方からのぞいたみたいに

中年の体育教師みたいな服装

うだつのあがらない中年の体育教師みたいな服装

お父さんが納屋の片づけをするときのような出で立ち

まるで大晦日にお父さんが納屋の片づけをするときのような出で立ち

キルケゴールを五ページずつ読むことを日課にしているような雰囲気

毎晩寝る前にキルケゴールを五ページずつ読むことを日課にしているような雰囲気。

舞踏病のミズスマシみたい

長い手と長い脚を、舞踏病のミズスマシみたいに、休みなしにびくびくぶるぶると動かしている。

緊張症のダンサーが、オーディションで『ウェストサイド•ストーリー』の出だしの部分を踊っているみたい

あるいは震えのとまらない緊張症のダンサーが、オーディションで『ウェストサイドストーリー』の出だしの部分を踊っているみたいに見える

まるで年季の入ったビル荒らしみたい

すり足でこそこそっと短く動く。まるで年季の入ったビル荒らしみたいだ

引用:『シドニー!』 村上春樹

読書レビューサイト:かえるの読書部屋