ねじまき鳥クロニクル

低い点数のカードを配るみたいに

アナウンサーは抑制した口調で、低い点数のカードを配るみたいにそれらのニュースを順番に読み上げていった。

土の中に深く埋められた石みたいに

電話? でも電話はついさっきまで土の中に深く埋められた石みたいに死んでいたのだ。

盗掘者に死体を運び去られたあとの古代の墳墓のよう

僕はベッドの隅に座って、あたりをもう一度ゆっくりと見回し、耳を澄ませる。でも何も聞こえない。それは盗掘者に死体を運び去られたあとの古代の墳墓のように見える。

名前もない涸れた谷を気まぐれに吹き抜ける風のように

僕は何度かため息をついた。名前もない涸れた谷を気まぐれに吹き抜ける風のように、あてもなくうつろなため息だった。

意味のない長い数値を眺めるみたいに

でも僕は特に理由も目的もなく、ほとんど無意識的に新宿から山手線に乗って品川で降りた。そして駅から陸橋をわたってホテルに入り、窓際のテーブルに座ってビールの小瓶を注文し、遅めの昼食を食べた。そして陸橋を行き来する人々を、意味のない長い数値を眺めるみたいにぼんやりと眺めていた。

致命的に遅れている列車を待っている駅員のように

中尉は腕をあげて真剣な顔つきで時計を見た。そして何かを求めるようにしばらく空の片隅に目をやっていた。彼はプラットフォームに立って、致命的に遅れている列車を待っている駅員のように見えた

精神異常者の画家によって描かれた、この世には存在しないはずの想像上の光景のように

なぜこんな非常時に中国人たちが野球のユニフォームを着て、ひどく殴られた上に兵隊たちに連行されているのか、獣医にはわけがわからなかった。それは精神異常者の画家によって描かれた、この世には存在しないはずの想像上の光景のように見えた。

猫が雨降りを眺めるみたいに

実のところ去年の夏にねじまき鳥さんとわかれて以来、私はそのときのことを思いかえしては、猫が雨降りを眺めるみたいにあれこれと考えつづけてきました。

材木みたいに

今は夜中の二時半です。まわりの人たちは材木みたいにぐっすりと眠っています。

まるで頭のいい子供が新しく得た知識を脳味噌の中に記録するみたいに

それから彼は食料品を紙袋から出し、まるで頭のいい子供が新しく得た知識を脳味噌の中に記録するみたいに、冷蔵庫に要領よくしまい込む。

まるで鬱蒼とした森の中を長い時間散歩していて、突然明るく開けた空き地に出たときのような

素敵な微笑みだ。まるで鬱蒼とした森の中を長い時間散歩していて、突然明るく開けた空き地に出たときのような微笑みだ。

まるで恐れるものを知らない巨大な回遊魚のように

朝の九時に玄関の門が低いモーター音を立てて内側に開き、シナモンの運転するメルセデス・ベンツ500SELが敷地の中に入ってくる。自動車電話のアンテナがリアウインドウの後ろに、真新しく生えた職種のように突き出している。僕は窓のブラインドのすきまからその光景を眺めている。車はまるで恐れるものを知らない巨大な回遊魚のように見える。

少し前に水をすっかり失ってしまった海底のように

すべては白く非現実的な月の光に洗われて、庭は少し前に水をすっかり失ってしまった海底のようにぬめっとして見えた。

高地の農夫がろばを朝から晩までこき使って、最後に使い殺すみたい

男はこれかの服がいつか破れてほどけてばらばらの糸屑に分解されてしまうまで、毎日毎日同じように着続けるつもりかもしれない。高地の農夫がろばを朝から晩までこき使って、最後に使い殺すみたいに。

オズモンド・ブラザーズくらい

できそこないのエクトプラズマのような不思議な柄の入ったネクタイは、オズモンド・ブラザーズくらい大昔からそこにずっと同じかたちで結ばれっぱなしになっているみたいに見えた。

暗闇の中で素性の知れない大きな虫に手を触れてしまった時に感じる気味の悪さ

ただ容貌が醜いというだけではなく、そこには何かねっとりとした、言葉では形容のできない不気味さがあった。それは暗闇の中で素性の知れない大きな虫に手を触れてしまった時に感じる気味の悪さに似ていた。

その表面張力で窓にへばりついたような

でも、と僕は思った。それから僕は、その表面張力で窓にへばりついたような簡潔な接続詞を、ちゃんとした長い文章に引き伸してみた。

まるでセロリの筋をいっぱい集めてそのままどんぶりに入れた料理を見るような

美容師は鏡の中の僕の顔を、まるでセロリの筋をいっぱい集めてそのままどんぶりに入れた料理を見るような目つきで眺めながら、彼女の指示にいちいち相づちを打っていた。

洗濯もののように

僕は古い座布団をひとつ持ってきて猫をその上に置いた。猫の体は洗濯もののようにぐったりとしていた。

まるで価値のある割れ物にでも触るように

女はやがて手を伸ばして、まるで価値のある割れ物にでも触るように注意深く、僕の顔のあざに指先をつけた。

引用元:『ねじまき鳥クロニクル』村上春樹