羊をめぐる冒険

影のように冷やり

トマトといんげんは影のように冷やりとしていた。

二流の女子大のコーラス部員みたい

服装も顔つきも平凡で、二流の女子大のコーラス部員みたいに見えた。

一人息子の写真でも見せるように

彼は一人息子の写真でも見せるようににっこりと微笑みながら

ほこりを払うようなしゃべり方

手袋で机の上のほこりを払うようなしゃべり方

天に向けてそびえ立つ巨大な機械装置の一個のボルトを思わせる冷ややかで硬質な三十分

それは天に向けてそびえ立つ巨大な機械装置の一個のボルトを思わせる冷ややかで硬質な三十分だった

薬用アルコールで見栄えよく磨き上げられた中古品の空

薬用アルコールで見栄えよく磨き上げられた中古品の空だった。

つつましい一家ならボンネットの中で暮らせそうなくらい巨大な車

つつましい一家ならボンネットの中で暮らせそうなくらい巨大な車だった

水銀の湖面を滑っているような

車は既に動いていた。まるで金だらいに乗って水銀の湖面を滑っているような気がした。

シャーベットとブロッコリをもりあわせたような感じ

まるで似合ってはなかった。ちょうど銀の平皿にシャーベットとブロッコリをもりあわせたような感じだった。

どちらから食べ始めればいいのか決めかねたまま餓死しつつあるといった類いの哀しみ

一頭の驢馬が左右に同量のかいばを置かれて、どちらから食べ始めればいいのか決めかねたまま餓死しつつあるといった類いの哀しみ

予告編つきの三本立て映画みたい

それだけの建物が予告編つきの三本立て映画みたいに丘の上に収まっている。

活火山でもあると似合いそう

「ずいぶん広いね ~中略~ 活火山でもあると似合いそうだね」

上りのエスカレーターを下に向かって降りているような

誰かが遠くでピアノの練習をしていた。上りのエスカレーターを下に向かって降りているような弾きかただった

新月のように部屋にしのびこんできた

受話器をとおして沈黙が新月のように部屋にしのびこんできた

金属製のクッキーの型を伏せたみたい

三階の窓から見下ろすと、車は潜水艦というよりは金属製のクッキーの型を伏せたみたいに見えた。

たっぷり日焼けさせたうえに一週間雨ざらしにして、それから地下室に放り込んでわざわざかびをはやしたといったタイプのオレンジ

布地のオレンジ色はかなり奇妙なオレンジ色だった。たっぷり日焼けさせたうえに一週間雨ざらしにして、それから地下室に放り込んでわざわざかびをはやしたといったタイプのオレンジ色だ

乾燥魚みたいな格好

応接セットの長椅子には頭の禿げた中年男が乾燥魚みたいな格好で寝転んでいた。

真白な画用紙を眺める時のような目つき

彼は真白な画用紙を眺める時のような目つきで僕の顔を眺めた。

肺病を病んだ大型犬みたいに

エレベーターは肺病を病んだ大型犬みたいにかたかたと揺れた

道路みたいに固く糊づけされたシーツ

アスファルト道路みたいに固く糊づけされたシーツ

引用:『羊をめぐる冒険』 村上春樹