風の歌を聴け

まるで狡猾な猿のように

僕にその本をくれた叔父は三年後に腸の癌を患い、体中をずたずたに切り裂かれ、体の入口と出口にプラスチックのパイプを詰め込まれたまま苦しみ抜いて死んだ。最後に会った時、彼はまるで狡猾な猿のようにひどく赤茶けて縮んでいた。

まるで歩道に落ちた夏の通り雨のように

僕が瞼を下ろすと同時に、彼女が79年間抱き続けた夢はまるで歩道に落ちた夏の通り雨のように静かに消え去り、後には何ひとつ残らなかった。

安定の悪いテーブルに薄いグラスをそっと載せるような

「もしもし、」と女が言った。それはまるで安定の悪いテーブルに薄いグラスをそっと載せるようなしゃべり方だった

カクテル・グラスのようにひんやりとした

カクテル・グラスのようにひんやりとした小さな手で、そこには生まれつきそうだあるかのようにごく自然に、4本の指が気持ち良さそうに並んでいた。

古綿をつめこまれたような

煙草とビールのおかげで喉はまるで古綿をつめこまれたような味がする。

缶詰の鮭みたいに

それは10月にしては少し寒すぎる夜で、ベッドに戻った時には彼女の体は缶詰の鮭みたいにすっかり冷えきっていた。

ずれてしまったトレーシング・ペーパーのように

しかしそれはまるでずれてしまったトレーシング・ペーパーのように、何もかもが少しずつ、しかしとり返しのつかぬくらいに昔とは違っていた。

引用:『風の歌を聴け』 村上春樹