村上朝日堂 はいほー!

ジェイ・ギャツビイが見つめた海峡の向こうの緑色の灯火のように

でもオペラはまだまだ遥か遠くにあった。それは僕らにとってはまだ贅沢なものだった。かのジェイ・ギャツビイが見つめた海峡の向こうの緑色の灯火のように、それはずっと遠くにあった。

晩秋のリスみたいに

「有名であることについて」―なんだかひどいタイトルだ。でもこんなタイトルを見てそれだけで僕を厭味なやつだと思わないでほしい。僕はただでさえ晩秋のリスみたいにいろんな問題をせっせと抱え込んでいる人間なのだ。

マルク債の如く

フィッツジェラルドはやはりアルコール中毒で、経済観念ゼロで、借金だらけで死んだ。僕の人生とはずいぶん違う。そういう人たちに比べると僕の私生活なんてマルク債の如く堅実みたいに見える。

明け方の白い月のように

何年かに一度しか止まらないからこそ、その死は余計に宿命の避けがたい到来を思わせるのだ。朝、目が覚めて枕もとに針の止まった(あるいはデジタル数字の消えた)時計を発見することは、ぼくにとってはいつも少なからざるショックである。明け方の白い月のように、その死はささやかな沈黙の包まれている。

引用:『村上朝日堂 はいほー!』 村上春樹