めくらやなぎと、眠る女

細いナイフの先でコルクの栓をほじくるみたい

プラスチックの椅子の上でからだの位置を変え、頬杖をついたまま、記憶の層を掘り返してみる。細いナイフの先でコルクの栓をほじくるみたいに。
(『レキシントンの幽霊』収録)

まるで項目べつに並んだ何かのサンプルの引き出しをひとつ抜きだして、そのまま持ってきたみたい

男の多くは登山用の厚手のシャツを着て、女の多くは飾りのない簡素なブラウスを着ていた。みんな不思議なくらい似た外見をしていた。まるで項目べつに並んだ何かのサンプルの引き出しをひとつ抜きだして、そのまま持ってきたみたいに見えた。
(『レキシントンの幽霊』収録)

翼をもぎ取られた大型爆撃機みたい

僕が高校に通っていたころに比べると、バスのかたちは新しくなっていた。運転席の窓ガラスが大きく、翼をもぎ取られた大型爆撃機みたいに見えた。
(『レキシントンの幽霊』収録)

果実のようなふくらみを持った

目を閉じると、風の匂いがした。果実のようなふくらみを持った五月の風だ。
(『レキシントンの幽霊』収録)

引用:『めくらやなぎと、眠る女』 村上春樹